たまりば

芸術・創作 芸術・創作日野市 日野市

交差点

仕事帰りの運転が非情にしんどい。
特に、右折待ちの交差点がしんどい。
煙草が切れていて「はぁ?!」となる。
缶コーヒーが空で投げたくなる。
突然の尿意に泣きたくなる。

ただの帰宅だ。
ただの帰宅で、いつもの帰路、こんなにもイラつく私は何も進んでいない。

殺伐とし過ぎな今日、ラジオから聞こえる音なんぞ、どす黒い景色の一部でしかなかったのだが、地味な「止まり」で、する事も無く、なんとなく耳を傾けていたら、こんなエピソードが語られていた。

『ある障害者施設に、突発的にパニックが起こる発作を抱えて生きる知的障害の少女がいました。彼女がパニックを起こす度に、彼女の担当職員は、いつも彼女を「抱っこね」と言って抱きしめ、彼女が落ち着くまで待つという方法で彼女と向き合って過ごして来ました。この少女はとても甘えん坊で、少しだけ我侭でした。欲しいものが手に入らないと泣き叫び、食べたいものを食べられないと大声で怒ります。この彼女と10年もの歳月を共にして来た担当職員は、退職する時もそんな彼女が、どうやって大人になって行くのかをとても心配していました。担当職員が退職してから五年後、彼女が成人したある日に、パニックを起こす頻度も大分減っていた彼女は初めての外出に挑戦する事になりました。彼女を抱っこして育ててくれた、かつての担当職員と喫茶店で待ち合わせをする事になったのです。初めてのバス、初めての電車、初めての喫茶店。彼女は、この喫茶店で大好きな先生とアイスクリームを食べる事を特別楽しみにしていました。切符を買って電車に乗り、お金を入れてバスに乗り、目的の喫茶店に到着すると、お店の前に彼女が覚えているよりも少しだけおばあちゃんになった先生が立っていました。大好きな先生と再会した彼女は、とても嬉しそうに大きな声で「こんにちは」と言いました。そして仲良く喫茶店に入ると、いよいよ待望のアイスクリームが運ばれて来ました。満面の笑みで、彼女がそれを食べようとしたその時、突然、向かいの席で事件が起こりました。男女二人が口論を始め、女性は泣き出し、男性は泣き出した女性を殴り始めたのです。泣いている女性を何度も殴る男性は、女性がぐったりしても、殴る事を止めません。店内は騒然とし、店員は警察を呼びました。かつての先生も彼女がその光景にショックを受ける事を危惧し、その場を離れようとしました。すると彼女はすっと席を立ち上がり「抱っこしなきゃ」と呟いたかと思うと、男女二人の方へ進んで行ったのです。そして、力尽き、泣き果てている女性では無く、まだまだ女性を殴ろうとしている男性を抱きしめました。「抱っこね。抱っこね」彼女は男性がその手を降ろすまでずっと抱きしめ続けました。彼女が頼んだアイスクリームは、男性が落ち着きを払う頃にはすっかり溶けていたそうです』

信号の方向指示器が右折を示した。
私は進む。いつもの帰路を先程とは違う気持ちで。

煙草が切れていてもいい。
缶コーヒーが空でもいい。

彼女が担当職員の「抱っこ」の意味をきちんと知っていた様に、くねった道を走る私も真っ直ぐでいたいと思った。

この行き急ぐ気持ちに、尿意は関係していない。

2007年11月15日 朝比奈
交差点

スパムにはまってます。
交差点

スパムおにぎり!休日の鉄板。
交差点

ゆかりはオクラにかけます。簡単で美味しいよ♪



  • 2015年11月15日 Posted byIKUMI at 03:31 │Comments(0)日常voice

    上の画像に書かれている文字を入力して下さい
     
    <ご注意>
    書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。